一般財団法人 山本美香記念財団(Mika Yamamoto Memorial Foundation)

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2023年5月15日
第10回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」受賞・三浦英之さん 
受賞の言葉

 山本美香とは何か――。報道現場に立つ者がそれぞれ異なる答えを持ち合わせていると思うが、私にとってのそれは、突き詰めて言えば「優しさ」だと思う。彼女が戦場で、あるいは被災地で、遠方からのズームレンズではなく、現場に深く踏み込んでその広角のレンズを被写体に向けるとき、そこには往々にして、人間のひたむきな「生」や、ささやかな「営み」が写っていた。崩れ落ちてしまいそうな現実をすくい取り、記録として後世に託し、多くの人に「行動すること」への喚起を促そうとした彼女の魂を、私はあえて「優しさ」と呼びたい。

 本賞の受賞作『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』は、アフリカ最大の資源国であり、最悪の紛争国でもあるコンゴ民主共和国に置き去りにされた、数十人の日本人残留児をテーマにしたノンフィクションだ。彼らは東南アジアなどでみられる日本人男性による買春によって現地で生まれた子どもたちではない。日本の高度経済成長期、日本の大手鉱山会社が資源を求めてアフリカ・コンゴに進出し、巨大な銅鉱山を開設した。その際、日本から派遣された日本人労働者たちが現地のコンゴ人女性と結婚し、少なくない子どもたちが生まれた。しかしその後、コンゴで内戦が勃発すると、日本の鉱山企業はコンゴから撤退。コンゴ人妻たちとその子どもたちが現地に置き去りにされた。父親を失った彼らは、たとえばヤマダ・タロウやタナカ・ハナコ(いずれも仮名)といった日本名を名乗りながら、スラムのような貧しい環境を今も必死に生き抜いている……。

 本賞の受賞で、歴史の闇に埋もれていたアフリカに取り残された日本人残留児たちの問題に光が当たることを心から願っている。山本美香が常に眼差しに湛えていた「優しさ」。その「優しさ」を引き継ぐ者に、私はなりたい。

三浦英之