2023年5月15日
第10回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」受賞・宮下洋一さん
受賞の言葉
山本美香記念国際ジャーナリスト賞は、主に海外で活動するジャーナリストに贈られる賞なのだと知り、胸が熱くなった。彼女のような命懸けの現場を歩んではいないが、異国の見え難い状況を日本に「伝えたい」という思いは共通している気がした。
この5月で、海外生活30年目に入った。日本を離れて間もない頃の緊張感が、今でも昨日のことのように蘇ってくる。ただ、当時の私の目に映っていた欧米社会と、今の私の目に映るそれは、大きく異なっている。
言葉の壁を乗り越え、別の世界が見えてきたからだろうか。それまでは、異文化圏の人々に対する誤解や偏見が、数え切れないほどあった。そう気づくまでの道のりは、20年、30年と、とても長かったように思う。
地球の裏側から日本を眺めると、欧米人の流れに遅れまいとする日本人の懸命な姿を見てとれる。日本人の親和性や協調性もあるだろうが、彼らの生き方や考え方とはギャップがあることは、あまり認識していないようにも見える。
ここ数年、私が追いかけてきたテーマを振り返ると、日本と欧米社会の「価値観の違いを考えてほしい」という願いが根底にあると思う。30年前の私自身がそうであったように、目に映る物象だけを基準にし、欧米の潮流に乗ろうとするのは危険だと感じるからだ。
今回の死刑のテーマもそうだった。日本人と西洋人の中間的存在になることを意識し、死刑囚から被害者遺族、弁護士から精神鑑定医まで、各国の多様な声に耳を傾けた。しかし、そこから見えてきたものは、同じ制度を扱うにせよ、それを支える文化や宗教的背景が国によって異なり、世界共通と呼べる「正義」は存在し得ないという答えだった。
海外を中心に取材するジャーナリストになってから、人間社会は想像以上に複雑で、白と黒の線引きができないグレーゾーンで溢れていることを知るようになった。私は、その混濁した世界を今後も探し続け、日本に伝えていきたいと思っている。
宮下洋一