2022年5月23日
第9回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」受賞・横田増生さん
受賞の言葉
山本美香国際ジャーナリスト賞を受賞して
By 横田増生
山本美香国際ジャーナリスト賞を受賞して、身が引き締まる思いがする。
海外で取材したジャーナリストに与えられる賞ではあるが、私が取材したアメリカと、山本さんが主戦場とした中東では危険の度合いがまったく違うからだ。まさに命をかけて取材した山本さんの名前を冠した賞をいただくことは、望外の喜びだ。
2020年のアメリカ大統領選挙を取材した私は、中西部ミシガン州にアパートを借り、そこから全米を取材して回った。ドナルド・トランプという異形の現職大統領が、果たして再選を果たすのか。アメリカ国民は16年の選挙に続き、再びトランプを当選させるのか、をどうしてもこの目でみたかった。
大統領選挙の行方を追うため、通常の取材と並行して、ミシガン州共和党事務所で選挙のボランティアとして働くことにした。戸別訪問をしながら、激戦州における人びとの声を拾いたかったからだ。
取材の途中で、新型コロナウィルスの急速な感染拡大を受け、国家非常事態宣言が出されたことは、事前にはまったく予想もできないことだった。また、黒人男性が白人警官に拘束時に殺されるという事件が起こり、ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事)運動が全米に広がった。
通常とは異なる形で進められた大統領選挙を取材するうち、もしトランプが選挙で負ければ、簡単に決着がつかないのではないか、と考えるようになった。当初は、11月に選挙結果が判明した時点で、取材を終え帰国しようと思っていたが、その2カ月先の大統領の就任式まで見届けることにした。
この判断が幸いして、21年1月6日に起った”トランプ信者“による連邦議事堂襲撃事件を現場の最前線で取材することができた。
フリーランスのジャーナリストが1年をかけ、大統領選挙を追う機会を手にすることは滅多にない。その貴重な機会において、後悔することなく取材できたことに感謝したい。
横田増生