2021年5月26日
第8回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」受賞・小松由佳さん
受賞の言葉
この度は、山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞の報を受け、大変光栄に思います。
2012年に、アレッポで山本美香さんが亡くなられる、そのほんの数ヶ月前まで私もシリアで取材をしており、その訃報を聞いた衝撃は今も忘れられません。ちょうど内戦へと向かう人々の暮らしを撮影し始めた時期で、同時期に、それも戦地でカメラを回していた日本人女性がいたことに、今も尊敬の念を覚えています。
シリアは文明の十字路としての古い歴史を持ち、また多様な自然環境を持つ国です。北側にはユーフラテス川が流れ、西側は地中海に面し、南側にはシリア沙漠が広がっています。なかでも私は、厳しさと豊かさとを合わせ持った沙漠という土地や、そこに独自の伝統と誇りをもって生きる人間の営みに魅せられ、2008年からシリアの取材を始めました。
やがて2011年からの民主化運動の高まりとともに各地で武力衝突が起こり、シリアは内戦状態となりました。それまで沙漠を生活の舞台とした多くの知人が日常を失い、逮捕され、行方不明となったり難民となりました。2021年現在、かつてのシリアの人口2240万人のうち、内戦による死亡者は約50万人、国外に逃れた難民は約560万人、国内で非難生活を送る人々は約780万人と言われ、その多くが現在も困窮状態にあり、先の見えない日々を送っています。
かつて穏やかな日々を送っていた人々が、内戦によってどのような経験をし、どのような現実に直面しているのか。それを政治情勢からではなく、市井の人々の視点で、また唯一無二のエピソードから伝えることで、内戦や難民についてより理解し、考えるきっかけになればと願っています。
2012年以降は、シリア周辺国で避難生活を送る難民の取材を続けています。彼らが難民だから取材するのではなく、かつての満たされた日常をどのように彼らが取り戻していくのか、激動の歴史を生きる一人一人の人間の姿を見つめ、記録したいと思っています。
そのうえで、2008年にシリアで出会い、シリア難民の一人となった夫との結婚生活からは、内戦が人々にもたらした具体的な影響や、難民が抱える困難さ、土地との繋がりや異文化共生の方向性について、常に考える機会を与えてくれます。
5年前に子供が生まれてからは、生活がサバイバル状態となり、一時期は取材に出られないこともありました。現在は毎年子連れで取材を行っており、子連れ故のさまざまなハプニングも起こりますが、こうして自分の人生のその時々のあり方と共に現地に立てることの喜びを感じています。今後も撮り続け、見つめ続け、表現し続ける道を歩みたく思います。
最後に、これまで私の活動を応援し、支えてくださったたくさんの方々に対し、この場をお借りして感謝を申し上げたいと思います。
本当にありがとうございます。
小松由佳